最高裁判所第二小法廷 昭和62年(行ツ)5号 判決 1988年7月11日
新潟県上越市仲町三丁目二番一三号
上告人
有限会社 栄不動産
右代表者代表取締役
金子範英
右訴訟代理人弁護士
渡部正男
西村四郎
新潟県上越市西城町三丁目二番一八号
被上告人
高田税務署長
渡邊啓一
右指定代理人
植田和男
右当事者間の東京高等裁判所昭和五八年(行コ)第四九号法人税額等更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和六一年一〇月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人渡部正男、同西村四郎の上告理由について
所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係及びその説示に照らし、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審の認定しない事実に基づき若しくは独自の見解に立つて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 奥野久之 裁判官 牧圭次 裁判官 島谷六郎 裁判官 藤島昭 裁判官 香川保一)
(昭和六二年(行ツ)第五号 上告人 有限会社栄不動産)
上告代理人渡部正男、同西村四郎の上告理由
(原判決の法令違背)
一 原判決は、「当初契約土地のうちで既払の手付金及び右五〇〇〇万円の合計二億円にほぼ見合う程度の土地について、控訴人から大産に対し所有権移転登記手続を行い、大産がこれを利用して資金を調達し残代金を支払うことを合意した」と判断しながら、一方では「本件土地(二九筆)の売渡価額二億四六一三万五一七五円にほぼ対応する二億三三〇〇万円の代金の支払を受けた」と判断しており、この点に関する判断の齟齬があるし、またそのような合意は証拠上認めることができない。
また、原判決は「確認書(甲七号証)においては、控訴人の新潟信用に対する借入残債務三〇五三万三〇六八円を大産が引き受けて支払うものと定められており、この定めが残代金額を一億三九六五万八七七六円と定めた確認書二条本文に対する但し書きとして置かれている点からみても、右の支払引受額は実質的な代金の一部を構成するものと認めるべく(中略)結局控訴人が返済しているが、本件全証拠によつても右支払引受の約定が控訴人と大産の間で拘束力のないものであつたとは認められないし、控訴人の右返済により、右支払引受の約束の効力が法律上無に帰するわけでもないから」と判断しているが、原審証人宮本昌逸の供述(信用性のある第三者の証言)によれば、「確認書第二条但書の新潟県信用組合に大産が引受け支払う件は県信用組合の承諾を得ていたか」の質問に「この時点では得てないです」と、「これについて大産では払うつもりはあつたのか」の質問に「債権者の承諾がないと払えないので実質的にはその場逃れということだと想います。」とあり、甲七号証確認書によると第二条で売買代金残額が金一億三九六五万八七六六円也であることを確認するとしたうえ、新潟県信用組合の条項は但し書きである。即ち、売買代金は六〇筆の価額が除外土地九筆より廉価であることから残額一億三九六五万八七七六円と手付金一億五〇〇〇万円及び八三〇〇万円を加算した金三億七二六五万八七七六円である。但し新潟県信用組合の点は債権者の承諾を、停止条件として大産において債務を引き受ける、大産としては債権者の承諾の可能性は全くないものでその場逃れであつたものであり、免責的債務引受けで債権者の承諾がなく無効であるか、停止条件付債務引受けで条件が成就していないのであり、その点について原判決は法律の解釈の誤りがある。且つ、原判決は「時価評価額における本件土地の平均単価が除外土地を含むその余の当初契約土地の平均単価より特に低廉であつたと認めるに足りる証拠はない」と判示するも、甲八九号証、甲二六号証、甲三〇号証により除外土地を含むその余の当初契約土地の平均単価より本件土地の平均単価が低廉であること明らかである。この点についても判断の誤りと経験則違反がある。
二 原判決は、理由四項2(一)の売買諸費(固有費用)について「被控訴人の右当初の主張は、その当時の資料からみて、右売買諸費(固有費用)の額は多くても七〇一〇万二四二五円を超えるものではないとの趣旨であるにすぎないから、被控訴人がその後の調査結果に基づきそれを下回る数額を主張したことをもつて自白の撤回に当たるとみる余地はない」と判示するが、被控訴人の昭和五四年八月二八日付準備書面四項2(二)では「大産関係の物件固有の売買諸費用として(中略)その金額には本件土地だけではなく、昭和五二年一月二〇日付の確認書に基づく所有権移転登記物件に係わる書費用も含まれている可能性もあり」と主張していたところ、昭和六一年二月一八日付準備書面で前期書費用を認めざるを得なくなりそれに対応して売買書費(固有費用)を変更したもので、原審における小島証人の証言によらなくても乙五号証では大産関係在庫とあり、他の諸費用については二一・九二パーセントに五〇・一四パーセントを累乗していることからみても、自白の撤回であること明らかである。且つ、この点については被控訴人側の高田税務署長の証言とあいまつて判定すべきであるので審理不尽にも当たるものである。
三 1 前期諸費用について原判決は「控訴人は本件土地取得までに四・五年要している」との控訴人の主張を否定しているが、本件のような広大な且つ地主の多数存在する山林の地上げには四・五年を要すること経験則上当然に認められるところであり、原審における証人小島義信の証言にもみられるところである、これを否定するなら経験則上の地上げの期間等立証すべきところであるのに原判決は経験則違反及び審理不尽である。
2 且つ、原判決は証拠として採用し得ない乙第一六〇号証によつているが、原判決自ら乙第一六〇号証をメモ(原判決9丁六行目)としており、控訴人はメモとしてその成立を認め、これを証拠として採用し得ないことについて証人小島義信の証人申請をなしたが、乙一六〇号証が全ての証人尋問を終了した後最終段階で提出されたことからして、右証人申請を採用すべきであり、控訴人代理人はこれを強く要望したのにこの証人採用を却下して判決し、前期諸費用については乙三九号証(これが正式な決算書である)、乙五号証(更正決定は乙五号証によつている)と一致する甲二七ないし甲二九号証、甲三五号証の一ないし八を採用(この点についても小島義信証人の申請を却下)しないことは審理不尽の違法を犯しているものというべきである。本来、課税の如何によつては一企業を死に追いやるものである。故に小島義信証人の証拠申請を却下し、メモに過ぎなく且つ正式な決算書類中の損益計算書(乙三九号証)につながらない。しかも全ての証人尋問終了後提出された乙一六〇号証により認定している原判決は審理不尽の誹りを免れない。
控訴人会社は昭和四六年三月期までは正式な決算書を作成しているが、その後乙三九号証までは正式な決算書を作成せず、その中で乙一六〇号証は試算として作成されたメモに過ぎない。すると昭和五八年三月三一日以上に要した前期諸費用について控訴人の昭和五九年四月二四日付、同年一一月一三日付、昭和六一年六月一〇日付、同年九月一六日各準備書面による控訴人の主張及び原判決における控訴人の主張の方が正当であるのでこれを引用する。
四 収益並びに費用及び損失の計算に関する通則では、「近代会計学の下における企業会計上の利益はいわゆる継続企業の前提に立つて事業活動から生ずる総収益と総費用とを各会計期間ごとに対応させ、その差額概念として測定されることになつている」(コンメンタール法人税基本通達谷川英夫監修、税務研究会出版局二六頁)(法人税法二一条、二二条以下)、ところが更正決定及び原判決はこれによらないものである法令違反である。
五 本件は一括売買(一方では一括売買を否定し、単価では一括売買を前提としている)であり、引渡時期の点及び本件売買契約の成立日は昭和五二年一月二〇日であること等からして、昭和五〇年三月期の事業年度の益金に算入すべきでないこと、控訴人の訴状以下各準備書面記載のとおりであるからこれを引用する。
よつて、原判決の右の点に関する判断は法令の解釈適用を誤つたものである。(企業会計原則「売上高は、実現主義の原則に従い商品の販売によつて実現したものに限る、法人税基本通達二-一-1、同通達二-一-二)
(判決に影響を及ぼすこと)
以上は判決に影響を及ぼすこと明らかである。